バックレがやめられない

バックレがやめられなかった20代の10年間、バックレ癖で人生がとんでもないことになった経歴を綴ります。

3.カウンセリングに行こう

もはや崩壊しかけている人生を冷静にながめて、ようやく決心した。

「カウンセリングに行こう」

 

自分は普通な人間なんだと、ずっと思ってきた。本来の自分は優秀なんだと、やりさえすればできるのだ、バックレさえしなければ、ちゃんとした結果を残して成功できるのだと、そう信じて生きてきた。
だから何度も何度もやり直したのだ。今度こそ大丈夫だと自分に言い聞かせて、大学を中退してからの9年間、何回もやり直そうとした。

でも、それだけでは何も解決しなかった。こんなに人生が追い込まれても、なおバックレを繰り返してしまうのはなぜなのか、ついぞ自分ではわからなかった。私は、自分では制御できない問題を、なにかどこかに抱えているらしい。それが一体何なのか、自分一人で気が付くことが、9年かけてもできなかった。
また1人でやり直そうとしたところで、また同じようにバックレを繰り返すだけだ。自分1人でなんとかしようと思っても、もうダメだ。これ以上、人生が取り返しのつかないことになる前に、専門家の力を借りるべきなのだ。
9年かけて、やっとその考えにたどり着くことができた。

 

バックレのことを専門家に相談する、というのがどういうことなのかよくわからないけど、とにかくカウンセリングに行ってみればいいのだろう、と考えていた。心療内科や精神科ではなくカウンセリングだと思ったのは、病気以外の相談も幅広く受け付けてくれそうなイメージがあったからだ。自分がうつ病などの精神障害ADHDなどの発達障害を抱えているようには、どうも思えなかった。

だが、いざ都内のカウンセリングルームを調べ始めようとして、ふと疑問が湧いた。

はて、バックレ癖を診てくれるカウンセリングなんて、果たしてあるのか? あるとしても、どうやってそこにたどり着けばいいんだろうか。

とりあえず、Googleの検索窓に「バックレ カウンセリング」「逃げ癖 克服」とか、思いつくキーワードを適当に入力してみた。すると、検索画面に表示されたのは、次のような結果だった。

「バックレてしまう従業員の5つの特徴と対策は?」
「仕事をバックレるとその後どうなるの?」
「カウンセリングをバックレてしまいましたが、どうしたらいいでしょう」

ググれば大抵のことは解決できるものだと考えていたが、ここまで何も得られないことがあるのか。バックレのことを相談できそうなカウンセリングの情報など、いくら次のページをクリックしても、ちっとも得ることができなかったのである。
まさか、バックレの相談先を探すのにこんな苦労が待っているとは思わなかった。東京都内にはカウンセリング施設なんていくらでもあるんだろうから、相談先に困ることなんてないと考えていた。甘かった。

しかし、収穫はあった。今回の検索で、私と同じように自身のバックレや逃げ癖で頭を悩ませている人からの相談が、Yahoo!知恵袋に数多く寄せられていることを知ったのである。知少し探すだけで「嫌なことがあるとすぐに仕事をバックレてしまいます」「逃げ癖はどうやったら克服できますか」といった投稿を、いくつも発見することができた。

ただ、まっとうな回答がついている投稿はひとつもなかったので、バックレ克服の参考にはならなかった。が、とにかくバックレが癖になって困っている人間は、私以外にも間違いなくいるということはわかった。だが、それでカウンセリングを受けようという人は、かなりレアな存在なのだろう。
簡単に考えていたが、もしかして、バックレの相談を受け付けてくれるカウンセリングなんて存在しないのか……?

 

 

そこで、「バックレ」というキーワードにこだわらず、カウンセラーやカウンセリングルームの情報発信を幅広く収集することにした。そもそも、カウンセリングルームというものに対する私の知識が漠然としすぎていて、何が相談できるのか根本的によくわかっていないと感じたからだ。

検索を始めると、カウンセリングルームが公開している記事やコラムだけではなく、付近のカウンセリングルームを探せるポータルサイトやカウンセラーに相談できる掲示板といったものも見つけることができた。
どんな相談ができるものなのかと、掲示板に寄せられている相談を覗いてみる。すると、「逃げ癖をなおしたい」「中途半端に仕事を投げ出して辞めることを繰り返してしまう」といった質問をいくつか発見することができた。やはり、バックレで悩んでいる人は私以外にもいるようだ。

が、そこについている専門家の回答は「まずは、気軽にカウンセリングを受けてみてくださいね」というものばかりだった。ネット上で相談できるといっても、本格的なカウンセリングはやはり施設でなければ対応してくれない様子だった。まぁ、それは仕方がない。掲示板に投稿された表面的な情報だけで人の内面の奥深くを診断することができないのは、当たり前といえば当たり前だ。

ひとまず、バックレの相談をしにカウンセリングに行ってもいいらしいということはわかった。となると、近場でバックレの相談を受けてくれそうなカウンセリングルームを、しらみつぶしに探すしかない。今度は、通える範囲内にあるカウンセリングルームのホームページをひとつひとつ巡回して、相談を受け付けてくれそうなところを探していった。

 

探し始めてから5日ほど経って、ようやくこれだと思えるところを1つ見つけた。気に入ったポイントは、以下の2つである。

精神疾患発達障害の相談だけでなく、仕事や恋愛など人生の悩み全般の相談を受け付けていること
・無料で受けられるお試しカウンセリングがあったこと

当たり前の話だが、多くのカウンセリングルームは、相談内容の例として「メンタルの不調」や具体的な「精神障害」、あるいは「メンタルの不調からくる体調不良」「内面に由来する人間関係の悩み」などをあげている。ホームページには、うつや発達障害アダルトチルドレンPTSDといった専門用語が羅列されており、私としてはどうにも尻込みしてしまった。

私の抱いている「バックレ癖をなおしたい」という悩みには、おそらくだがうつや発達障害といった背景があるわけではない。人生の中で長い時間をかけて構築されてしまった行動習慣を矯正したいという話なのである。
そういうわけで、精神疾患名がずらりと並ぶホームページを見ても、バックレの相談はできないさそうだと感じてしまったのだ。

その点、やっと発見したこのカウンセリングルームは、恋愛や仕事、人間関係などの悩みについて受け付けていると書いてある。さらに、私が惹かれたのは次の一文だった。

「頭では理解しているのに行動が伴わない。その根底にある“考え方のクセ”を修正します」

“考え方のクセ”を修正する。
私が求めているのはこれなのではないか、という予感がした。ここならバックレの根底に隠れている何かを見つけ出し、克服することができるのではないかという期待に、胸に沸き上がった。

お試しカウンセリングがあるというのも、敷居を低くしてくれた。「バックレの相談はできるのか」というそもそもの疑問を解消するためだけでも、お試しであれば訪ねやすい。

思いのほか時間をかけて、ようやく良さそうなカウンセリングルームを見つけることができたのだ。まずは、行ってみよう。
行動力だけは無駄に高い私は、さっそく予約の手続きをとった。専用フォームからメールを送ると、約1週間後にお試し相談が決まった。